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最高裁判所第三小法廷 平成6年(オ)225号 判決 1994年10月25日

広島市安芸区中野東七丁目二六番一九号

上告人

株式会社 トーワテクノ

右代表者代表取締役

神﨑幹雄

右訴訟代理人弁護士

林弘

中野建

松岡隆雄

大阪府守口市南寺方東通五丁目八八番地の二

被上告人

株式会社 ザ鈴木

右代表者代表取締役

鈴木允

右当事者間の大阪高等裁判所平成四年(ネ)第一八五九号損害賠償請求事件について、同裁判所が平成五年一〇月二六日言い渡した判決に対し、上告人から一部破棄を求める旨の上告の申立てがあった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人林弘、同中野建、同松岡隆雄の上告理由について

所論の点に関する原審の事実認定は、原判決挙示の証拠関係に照らして首肯するに足り、右事実関係の下においては、上告人が株式会社近澤鉄工所から被告物件を購入してこれを他へ販売したことにより本件特許権の実施料相当額を不当に利得したとした原審の判断は、正当として是認することができる。原判決に所論の違法はない。論旨は、原審の専権に属する事実の認定を非難するか、又は独自の見解に立って原判決を論難するものにすぎず、採用することができない。

よって、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 可部恒雄 裁判官 園部逸夫 裁判官 大野正男 裁判官 千種秀夫 裁判官 尾崎行信)

(平成六年(オ)第二二五号 上告人 株式会社トーワテクノ)

上告代理人林弘、同中野建、同松岡隆雄の上告理由

原判決には、判決に影響を及ぼすべき明らかな法令解釈の違背、及び事実の誤認がある。

一、近沢鉄工所分については、既にその損失は、補填済みであるとの上告人の主張につき、原判決は「・・・前記別件判決が認容し、控訴人(被上告人)が近沢鉄工所からその支払を受けた損害賠償金の額は、近沢鉄工所が控訴人(被上告人)の有する本件特許権等を侵害して、前記イ号ないしロ号物件の海苔取出装置を具備した海苔取出及び供給装置合計一三台を製造し、これを被控訴人(上告人)に販売したことによって近沢鉄工所が得た利益の額をもって、控訴人(被上告人)が被った損害と推定された(特許法一〇二条一項)ものであって、これを購入した被控訴人(上告人)が更にこれを他に販売したこと(これもまた別途に控訴人の有する本件特許権を侵害する行為であるから、特許法一〇二条一項又は二項により、控訴人(被上告人)は被控訴人(上告人)に対し、被控訴人(上告人)の売買行為による利益額又は販売行為についての実施料相当額を主張立証して不法行為による損害賠償額を求め又はその被った損失の不当利得返還請求をすることができるものであり、現に本訴は、その不当利得返還を求めるものである)による控訴人(被上告人)の損害ないし損失をも含めた損害賠償を命じたものではないことが明らかであるから、控訴人(被上告人)が既に近沢鉄工所から別件判決による損害賠償金の支払を受けているからといって、控訴人(被上告人)が、被控訴人(上告人)の本件特許権を侵害する販売行為によって被った損害ないし損失についてまで、右支払によって補填されたものとは認められない・・・」と判示し、近沢鉄工所分として合計一三台の実施料相当額の不当利得金三八万五〇〇〇円を認定する。

二、ところで、特許権の効力は、製品が適法に販売されるときは、特許権者はこれによって実施の目的を達し、右効力は消滅し右製品について重ねて特許権に基づく追及権は存在しない(特許権消耗の原則)と理解されている(大阪地判昭四四・六・九無体集一巻一六〇、奈良地判昭五〇・五・二六判タイ三二九号二八七)。

然るに、特許権の侵害に基づく損害賠償請求にあたり、その特許発明の各種の実施行為(製造、使用、販売、貸し渡し、展示、輸入等)が各々に独立してなされた場合、そのすべて各々の行為が特許権の侵害であることは認められるがその異なる実施行為(例えば製造と販売)に重複して損害賠償を請求しうるかどうかということを検討するに、特許権消耗の原則からすれば損害賠償も各々の実施の種類による実施行為相互の間は、不真正連帯債務の関係に立つからその中の一人から損害の補填を受けたときは他の種類による損害賠償請求権は消滅すると解するのが妥当である。

三、従って、近沢鉄工所分の一三台については別件判決に基づき被上告人が近沢鉄工所から本件特許権の侵害として金二五五万円を受領したことによりその特許権は消耗しており上告人に対する損害賠償請求権は消滅しているにもかかわらず、上告人に対し本件特許権侵害を認め、不当利得金三八万五〇〇〇円を認定する原判決は特許法一〇二条一項、二項の趣旨に反しその解釈を誤まるものであるとともに、その事実認定において著しい誤認がある。ちなみに、原判決の論旨に従えば、特許発明の各種の実施行為(侵害行為)が各々独立してなされた場合と一人により行われた場合等その特許権侵害の関与者の多少によりその損害額が大きく異なるという不合理な結果を招来することとなり法常識に反すること明らかである。

四、よって、原判決は違法であるから棄却されるべきである。

以上

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